「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
外伝その5

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<金庫番の少女は遠き母を思う>



「カゴメさん、髪の色はこんな感じでいい?」

「う〜ん、もうちょっと明るめのグリーンがいいかなぁ」

 声が聞こえる。

「了解。で、外見はこれくらいの歳でいいの? ちょっと幼すぎないか?」

「元ネタのキャラがこれくらいの年齢だからね。能力とあわせるとちょっとアンバランスだけど、こんな感じのプレイヤーも結構居るから問題ないでしょ」

 なんだろう、凄く暖かい。

「ねぇカゴメさん、流石にこれは目が大きすぎない? それに、黒目も大きすぎでしょ。殆ど白目が無いんだけど」

「あるさんは解って無いなぁ。創世記のアニメや少女マンガのキャラはこうだったのよ。そして黒目の中にはハイライトでいっぱい星を飛ばすの。これこそが古き良き時代の乙女キャラよ。今は目が大きすぎるって感じるかもしれないけど大丈夫。3Dモデリングデーターでちゃんと顔全体のバランスを確認しながらデザインしたから違和感は無いはずよ」

 体に流れ込んでくる魔力。

「真っ赤な大き目のリボンにポニーテールって。流石にベタなんじゃ?」

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、漫画やアニメの創世記を模したキャラだって言ってるでしょ。この子の設定と外見、そして私の古き良き時代の少女マンガの知識を総動員した結果、この髪型がベストという結論に達したんだからこれでいいの」

 そしてその魔力によって再構成される体。

「へぇ〜、かなりフレーバーテキストも書き込んでるんだね」

「ええ。うちのギルドだと外見もガチの戦闘系ばかりだから、こんな可愛い子は作らせてもらえないもの。折角好き勝手に作っていいって言ってもらえたんだから、思いっきりこだわって作ったわ。」

「でも、ちょっと腐りすぎなような?」

「あら、あるさんが耽美系BLキャラはダメって言うから女の子にしたのに、それでもまだ何か文句があるの?」

「いや流石に設定とは言えBLは・・・まぁあくまでテキストだし、いいか」

 ああ、私が構成されて行く。

「もう十分に堪能した? それじゃあ、起動するよ」

「ええ。お願いするわ」

 新たな命の創造。

「あるさん。本当に私が名前をつけてもいいの?」

「うちのポイントで作ったんだから所属は誓いの金槌になるでしょ? でも一緒に創造したんだから、名前くらいはカゴメさんがつけてよ。そうしないと、私だけが親みたいじゃないか」

「そうね、ありがとう。」

 目を開くと、二人の女性が私に微笑みかけてくれていた。

「あなたの名前はケイコ。そう、ケイコ・タテバヤシよ」

「よろしくね、ケイコちゃん」

 これが私、ギルド誓いの金槌改め、都市国家イングウェンザーの宝物庫統括を任されている私の、始まりの記憶。



「ケイコちゃん、いる? 頼まれた物、図書館から持ってきたよぉ」

 私がいつも通りクッションを置いた3人掛けソファーの上でカゴメ様の蔵書であるウスイホンを読んでいると、ほわほわした声が宝物庫に響き渡った。

 あの声はセルニアちゃんだね。

 彼女は地上階層統括&コンセプトパーティーホール責任者権店長って言う長い肩書きをアルフィン様から頂いている私のお友達だ。

「ここだよぉ〜。いつものソファー」

「あっ、いた。もぉ! またソファーの上に寝転がってだらだらしてるし。そんなんだとアルフィン様に怒られるよ」

「大丈夫よ。私の役目はこの宝物庫の管理だもん。この場所に転移してからは新しい宝物が運ばれてくる事もなくなっちゃったし、元からあるものに関しては全部完璧に把握してるから、別に何してもいいのよ」

 そう、私の役目はこの宝物庫(アルフィン様は金庫って言うけど、金庫って言うには流石に入っているものが凄すぎるのよねぇ)に運ばれた物を鑑定したり、種類別に配置して志向の方々が使いたい時にすぐにお出しできるようにしておく事なんだ。

 これでも元の世界にいた頃は結構忙しかったのよ。
 しょっちゅう色々な物が運ばれてきていたから、私のもう1人の創造主であるカゴメ様の蔵書や映像媒体を見る暇もなかったもの。

 でもこの世界に来て私の生活は一変したわ。
 だってそれからは一度も新たなアイテムが運ばれてこないんだもん。
 おかげでここも開店休業状態。

 一応アルフィン様が新たに発行なされたイングウェンザー金貨はサンプルとして10万枚くらい運び込まれたけど、あれって形こそ金貨だけど作業区画においてあった金のインゴットに銅を混ぜて作っただけのものだからユグドラシル金貨と違って魔力も篭っていないおもちゃのコインみたいな物だもん、本来なら宝物庫に置くほどのものでもないんだよね。

 だがら実質何も運ばれて来て無いってことなの。

 まぁ、暇になったおかげでカゴメ様の蔵書を読む時間ができたし、セルニアちゃんを初めとして、城の子たちがよく遊びに来てくれるから退屈はして無いんだけどね。

 たた。

「そう言えばセルニアちゃん。アルフィン様ってお姫様になったのよね? それに他の至高の方々も貴族になったとか。やっぱりお忙しいの?」

「う〜ん。アルフィン様はかなりお忙しいみたいだよ。いっつもメルヴァさんがお仕事してくださいって、書類をいっぱい執務室に持ち込んでるし。それにこの世界の国の貴族や皇帝とも仲良くなったみたいで、そっちからも色々お願いされちゃってるから余計に大変みたいだよ」

「そっか。だからここに来てくれないのかなぁ?」

 元の世界にいた時は手に入れたアイテムを持ってきてくれた至高の方々が、この世界に来てからは一度も顔を見せてくれないんだ。

 それにアルフィン様と一緒に私を創造なされたもう一人のお母様、カゴメ様も。

「あっ、でもまるん様やあいしゃ様はあまりお仕事無いみたいだから、遊びにきて下さいって言えば来てくれると思うよ。頼んでおこうか?」

「ありがとう、お願いね。ところでセルニアちゃん。カゴメ様にはお会いする事、できた?」

「ううん。アルフィン様が言うには、私たち誓いの金槌以外では悪名高い最凶ギルド、アインズ・ウール・ゴウンしかこの世界に来てないみたい。だからカゴメ様が所属してるギルドも、この世界には来て無いんじゃないかなぁ?」

 そっか。

 私もなんとなく、そうなんじゃ無いかなぁって思ってたんだ。
 だってカゴメ様は至高の方々と違って、新しいアイテムとかが無くてもよく私に会いに来てくれてたんだもん。

「カゴメ様はこの世界にはいないのか。・・・でも、できる事ならもう一度会いたいなぁ」

「ケイコちゃんにとっては、もう1人のお母さんだもんね」

 セルニアちゃんが言うには、至高の方々にもこの城が別の世界に転移した理由は未だに解っていないらしい。
 それだけに元の世界へ帰還したり、また誰かをこの世界に呼び寄せるのは多分無理なんだろうとは思うんだ。

 でももう一度だけ、どんな形でもいいからカゴメ様に会いたい。
 そしていつもみたいに微笑みながら、可愛いよって頭をなでて欲しい。

 けして叶う事が無い願いだと解ってはいるけど、そう願わずにはいられなかったんだ。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 ギルド誓いの金槌の宝物庫を守る100レベルNPC、ケイコのお話でした。
 ケイコはドラマCDでNPCたちにもゲーム時代の記憶があると語られていたので生まれたキャラクターです。

 ポイントを消費して創造したのは確かにアルフィンですけど、ビルドやフレーバーテキストを別の人が構築したり書いたりしたらその人も創造主といえるんじゃないかって思ったんですよね。

 でもゲーム時代の記憶が無いのならそんな事は理解できないだろうけど、ちゃんとその記憶があるのなら理解してもおかしく無いんじゃないでえしょうか。

 そして前回の外伝を読まれた方は解っていると思いますが、彼女の願いは叶う事になります。
 まぁお母さんではなくなっているし、外見も年下になってしまってますけどね。

 さて、これで本当にボッチプレイヤーの冒険はこれで終わりです。
 長い間お付き合いくださいましてありがとうございました。

 年が明けたら本来はアップする気がなかった前回の話をハーメルンにアップします。
 その時、ハーメルンの活動報告の方に後書きのようなものを書くつもりなので、もし宜しければそちらも読んでください。

 現在小説家になろうと言うページで新作を書いています。

転生したけど0レベル 〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜

 もし宜しければ、そちらも読んでもらえたら嬉しいですし、またこのボッチもオリジナル版として再構成を始めているので、そちらも近いうちになろうで公開できると思います。

 その時は読んでもらえたら幸いです。

 それでは皆様、良いお年を。

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